甲骨文字からくる強さ

 甲骨文字とはご存知の通り,四大文明の一つで中国に起こった黄河文明の代表的な文化で,亀の甲羅や骨に刻んだ文字をさす,いわば漢字の起源です。

アジアデザイナーの作品からはとにかく力強いイメージを受けます。作品にカスレが存在しないとも言えます。細かく正確なストラクチャーやフレーム,規則正しく並ぶ花の集まり,咲いているものは咲いている今を,つぼみのものはつぼみの今を美しく見せてくれます。ありのままに見せる美がそこにはあります。激しい感情をもシェイプ(型)の美にかえてしまう芸術性に息をのむほどです。

そういうデザインと甲骨文字となんの関係があるかというと,そうなんです。甲骨文字にも形と強さを感じますよね。これまで20年以上,様々な国のデザイナーと接して,彼らの作成に関わりながらお国柄というものを感じました。手伝っていても自分の花を活ける時とは違うなにか,(緊張感は当然ですが,)わかりやすく言うと力の入れ具合です。花を持ち,挿すときの指先や腕の力の入れ具合がどうも違う,腹の底から力をいれて一輪を持つとか指すというような,ふだんと違うことを感じました。硬い物に文字を刻む甲骨文字を書くときは,力を抜いては文字にならないでしょう。漢字の起源である甲骨文字は力を入れるところから始まったのです。だから,その文字を作りだした祖先をもつ彼らの作品構成や花を活けるという動作において,力を抜いた部分が見当たらないのです。自然,作品に力強さを感じるのでしょう。

大陸から伝わった漢字は日本では「真名」と呼ばれて男性が使うものでありました。そして漢字をもとにして,万葉仮名,草仮名を経て,現在のひらがなとおなじ表音文字である「仮名」ができました。平安時代にはひろく女性にも使われましたね。そのころはすでに筆を使って紙に文字を書くようになっていましたから,文字を書くための力はそう必要ではありませんでした。男性の紀貫之が書いた「土佐日記」は有名ですね。冒頭で「男もすなる日記を女もしてみむとてするなり(女の私も仮名で,男性がお書きになるという日記を書いてみますわよ)。」と言っています。平安時代の文化と言えば,「源氏物語」「枕草子」が超ウルトラ有名ですが,このひらがなによって女流文学が花開いたのはいうまでもないでしょうし,ひらがなが醸し出す柔らかさは,今のような困窮した日々であっても穏やかに過ごせる日本人の精神の源かもしれません。

ここで文学の伝達手段である「ひらがな」に目をむけてみると,ひらがなにはカスレがあります。「り」とか「け」というのは最たるもので,お習字で「いろは」を習ったときに「すっと入って,すっと出るのですよ」と教わりました。(リンク先の氏に指導を受けたいものです…。)筆使いで始まった仮名文字と亀の甲羅や骨で始まった甲骨文字では「力」の入れ具合が異なるのは当然でしょう。それが花を持つ力の違いとなり,同じアジアであっても日本と大陸のフラワーデザインの基盤の違いに思えます。

 今日,世界中のデザイナーがあらゆる国のデザインや文化を学びながら,様々なデザインを作りだして皆さんの目を楽しませています。世界中を回ってショーをしているアジア出身デザイナーが,若い駆け出しの頃フランスで欧風のデザインを披露してこう言われたそうです。「あなたはアジア出身なのに,どうしてアジアのオリジナリティを表現しないの?」と。それ以来30年近く,彼は母国の文化をベースに様々な国から学んだ慣習やテクニックを加えて,次々と新しいデザインを作り出しています。花の国際交流というのはそういうことではないでしょうか。

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